
私の楽しみの一つに西陣織物会館に行ってそこで実演をされている職人のみなさんからお話をうかがいながら、その仕事を見せていただくということがあります。
この方は染めに先立って、「糊」を置いています。
こ糊を置いた内側に染料を入れていくわけですが、占領がその外に浸み出ないようにダムを施しているわけです。

この円錐のロート状の筒の中に糊が入れられていて、それを指で挟んで押し出しながら図案にそって線を描いていくわけです。
糊は米を粉にしたものを糊状にしてそこにカーボンを混ぜて作っていると聞きました。
以前は着色には紫ツユクサが使われていたのですが「それをする職人がいなくなって、自分で工夫している。」とのことでした。

私もこの糊を置く作業をほんの少しばかりやらせていただいたことがあるのですが、適量を均等に押し出そうとすると妙に力が入り、しかも線の通りにノズルを滑らそうとしても糸の凹凸に阻まれてゴットンゴットンとぎこちないのです。

しかもこの押し出す作業と線をひく作業とでは力の向きが相反するので「難しい」のです。

この方の指先をご覧ください。
人差し指はこうした毎日の仕事で変形してしまっています。 まさに職人の手です。

このロート状の道具は江戸時代ころの和紙の反故紙を利用しています。ですから良く見ると墨で書かれた文字が見えます。
「和紙がいいんですね。しかも昔のものがいいようです。ちょうどいい柔らかさと丈夫さと・・・。こういう紙も昔はいくらでも手に入ったんですが。」

使っているうちに一週間ほどでなじんで柔らかくなるのですが、その頃には耐用の限界になって新しいものに取り換えます。すると真新しいモノはまだ固いですから調子が変わるんですね。
古い使い込んだものと新しいモノとを触らせていただきましたが、成程ずいぶん違います。この両方を取りかえて瞬時に調子よく描くのはなかなか難しそうです。
「まあ、そうですね。」と難しいということにうなづきながらの笑顔は、そこは職人としての技術と熟練ですからという自信がうかがえます。

円安の影響で台湾からのお客さんに加えて・・・・大陸からのお客さんは政治的な摩擦の影響でぐっと減りました・・・欧米からのお客さんが増えました。
ここで実演していても外国からのお客さんがほとんで日本人が稀にしか来ない。日本の人にこういう職人の仕事を知ってもらいたいのだが、とおっしゃいます。
日本のことは外国の人の方がよく知っているのかもしれません。そして日本人は欧米の人が日本を評価するのを見て、・・・自分ではよく知らず、自分自身では評価する力もないけれど・・・日本が世界に誇る文化を持っていると自己満足しているのです。 最近の富士山現象もその一つのように思えます。「日本人で良かった」などと。
この口金を作る職人さんも「もう一人しかいない。」のだそうです。
これも消耗品ですから「仕方がないから買い貯めをしているんだけれど、自分で作らなければいけなくなると思う。 これはハンダ付けがされているんだけれど、どこがついであるか分からないでしょう?!」

今、糊を置いているのは着物の布です。
最近は友禅の着物でもインクジェットプリンターを使った「印刷」が盛んです。絵柄も過去の遺産をコンピューターにスキャニングして取り込み、コピペして「出来上がり」なんです。

手仕事による職人の仕事がなくなれば「創造性」がなくなります。
職人の仕事は細かな分業を、単に高度な技でこなしているというだけだはないのです。その一つ一つの細分化された分業の中で営々として工夫が積み重ねられてきているのです。そしてその総結集として最終の着物なり帯ができるのです。

消耗品であるこの口金にも職人の長年月の技が結晶しています。

半世紀後、こうして職人の仕事の様子を写真に撮ることができるかどうか・・・・。
テーマ:ある日の風景や景色 - ジャンル:写真
- 2013/09/30(月) 00:04:06|
- 伝統工芸
-
| トラックバック:0
-
| コメント:2
こんにちは
静かな 素敵な人、
日本の春夏秋冬を身に纏える倖せも、職人さん達の働きで ですね、外国にも多くの職人さんを
見てきましたが、今日の方の静の姿は他では・・・
近在、素材、柄、色も洋服はごちゃごちゃですが
着物だけは四季を留めてと願います。
- 2013/10/01(火) 11:51:17 |
- URL |
- umi925 #uBX3JtyA
- [ 編集 ]
コメントいただきありがとうございます。
写真に見ていただいた職人さんたちがよりよい仕事ができるようになるためにはどうすればいいのか。考えてしまいます。
職人さんたちが umi925のような「ものを見る目」を持ってくれればそれだけでもありがたいといっていた言葉が印象的です。
- 2013/10/01(火) 19:26:21 |
- URL |
- soujyu2 #-
- [ 編集 ]