いくら注意して見ていても、その方が指先の小さな世界で何をされているのか、まったく分かりません。
時折、糸をひき絞る際に「ピシッ パシッ」と鋭い音がする。
この方は「絞り」をされているのです。
帯に絞りの仕事をしておられるのです。
布をつまんで絹糸で括る作業です。・・・そう書けばなんということはないようなこの仕事は、しかし、実に奥の深いもののようです。

絞るための絹糸はご覧のように、糸に撚られてはいません。糸のように繊維を撚ると、撚られた繊維に太さのムラができます。するとその分、絞りの効果にもムラが出るというのです。

写真に撮ればこそ、括る『糸』の様子も分かりますが肉眼ではとても追いついていけません。

「正面からでは見えないでしょ?! (作業のすべては)私の爪の中ですから。
テレビの撮影の時には肩越しに撮って行かれましたよ。そうしないと見えないと思います。どうぞ見てください。」
そうおっしゃっていただいたので背後に回ったのですが。
ほんの1ミリほどに布をつまんで括ります。その世界が小さいことと作業の早いことで、とても私の技術とこのカメれではついていけません。
目を凝らしてもらいますと、なんとか写ってはいるのですが、ブログの画面ではきついかと思います。

高速度ビデオカメラで撮影してスローモーション再生をしないと無理ですね。

この帯で3カ月、総絞りの着物一着に1年は優にかかるのだといいます。
「辛抱強い仕事ですよねぇ。」といいますと「辛抱強くて気に長いとよく言われるんですが、実は気が短いんですよ。魚釣りの人が気が短いのと同じかもしれません。」とおっしゃいます。

1日4,5時間のお仕事が限界のようです。本来は自宅の工房で、他からの音も何もない所で(つまり私のような「外野」の雑音の無い所で)集中して仕事をされています。
「この仕事は他の仕事とは違って私の体以外に特に道具なしにする職人仕事なんですよ。」
成程作業台もなければ、特別な「括り機」もない。ただただ指先だけです。
「この10本の指が皆働いているんです。」

帯に下書きされた線を「絞り」で表現するのだそうです。思うだに気が遠くなる工程です。
テーマ:女性ポートレート - ジャンル:写真
- 2013/07/25(木) 00:05:58|
- 伝統工芸
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