仕事歴70年!!の大ベテランです。
えっ?! 仕事歴が70年て・・・・どういうこと? なんと8歳の時から「絞って」いたという事なんです。

一つの絞りは絹糸で4回ほど縛りますが、「爪の中での仕事」というほど細かくて忍耐のいる技です。
「絞りにはいろいろな種類があるけれどこの『本びった』だけは女の仕事とされてきた」という事です。
男女についての固定観念では見られないし、また男女の能力・特性というよりその置かれた社会的な状況・地位ということも考えに入れなければならないとは思うのですが、なかなか男にはできないなあと感じるような緻密でしかも延々として続く果てしない・・・・一見したところ・・・・単純労働です。

その人の全人生を飲み込んでしまうという様な仕事です。
あれやこれや野心があり、自分の能力が適性が・・などと思う様なそんな人間にはなかなかできない仕事だと思います。
第一、仮にそう絞りの着物づくりにとりくめば年を単位に完成までの日程を考えるのですから、どんなに頑張っても生涯で70着は作れないのです。70着どころではなくて4,50着さえ無理なんじゃないでしょうか。

この方には娘さんがいて、既にこの世界で伝統工芸士となっています。
時々その娘さんともお会いして写真を撮りお話を聞かせていただいています。
母子二代続いて伝統工芸士です。珍しい例です。この方自身はこの仕事の三代目という事ですが、実はその娘さんが4代目で「最近孫が『おばあちゃんの仕事を継ぎたい』と言ってくれて・・・」と目を細められます。
それで5代目が誕生しているわけです。

「本人がやりたいと言ってくれるのはうれしいのだけれど、生半可なことではできない仕事だよと話した」ことを聞かせてくれました。
それに、今や「絞り」のすべての分野で後継者問題が深刻で、「昔みたいに本びったの仕事ができればいい」という分業体制のある時代とは違うから、様々な絞りの仕事を、各分野の職人が元気なうちに学ばないといけないという大変な課題を背負うことになることも「よく話した」のだそうです。

絞りも各種の仕方を多様に駆使して一着の着物が出来上がります。
それを一身でやれるような職人になるというのは、それぞれに名人仕事をする人がいたのを全部身に着けるというのですから気の遠くなるような話です。
でもそれをしないと絞りの技術は滅んでしまいます。
そういう世代的な課題があるのですね。伝統工芸の宿命を、一人の若い女性が背負うわけです。

幸いこの方はまだまだお元気ですし、娘さんも相当な腕前になっています。そこにお孫さんが決意してこの道に踏み入るのですから、「何とかできるだけの応援をしたい。」とおっしゃっているのです。

私が「写真を撮っても大丈夫ですか?」と・・・既にこれまで何回か撮らせていただいているのですが、その都度改めてお願いするのです・・・・聞きますと「どうぞ撮ってください。それで少しでもこうした職人の仕事に関心を持っていただく機会が増えるのなら・・。」と。
- 2019/08/13(火) 00:00:45|
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