「絞り」の手法にはいくつかあります。
桶絞りなどというものもあり、この方はその桶絞りもされるという事です。
この写真の技法は「帽子絞り」です。

染の際に糊や蝋をおいて防染する技法に対して、絞りは糸で括って圧力で侵染を防いだり、桶の中に閉じ込めて染まるのを防ぐ手法です。
ですから相当なテンションで糸を引き、括らねばなりません。

ですが素人がやると、緩いのは無論ダメですが、力任せでは糸を切ってしまいます。
職人さんが糸を引っ張ると「ビキッ」という音がしたり「キリッ」「キッ」と糸のきしむ音がします。 かなりの力が瞬時にかかりますが糸は切れません。

ある個所を括れば、別の個所を括るために一旦糸を切りますが、いちいちはさみなどを使っいては能率が上がりません。ですから、こうした刃物を台に打ち込んで、その刃に糸をかけて切ります。一瞬の早業でまさに「目にもとまりません。」
この方はカッターナイフの刃を利用されていますが、肥後守を使う方も多く見かけます。

帽子絞りだけではなくて様々な手法についいてお話をしてくれますし、ゆっくり作業をしてくれたり、一旦ほどいたりと、懇切に見せてくれます。
私がいろいろ質問するせいもあるのですが、業界の実情やこうした工芸的な技の将来についても心配されていることなどを話してくれます。

大変不遜な話になりますし、いい話ではないのですが・・・・様々な写真家が、いろいろな動機や目的で職人さんの写真を撮っておられます。それらは業界や行政が宣伝や広報のため、あるいは記録として残すために撮られています。そしてこうした伝統工芸の現役の職人さんは、あと数年で一挙におられなくなります。そうなると・・・・・こうして私が撮っている写真が職人さんたちの生きた制作の姿(残念ながらご自身たちの工房での本当に使っている道具、器械ではないのですが)はもはや撮ることができなくなります・・・・・・・・私の写真は歴史的に貴重なものとなってしまいます。
- 2018/11/22(木) 00:00:05|
- 伝統工芸
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