私がこの会場に入りますと、後日登場していただきます友禅の下絵作家さんが声をかけてくれました。
久しぶりにご尊顔を拝謁いたしました。 それで少しばかりお話をしていますと背後から「やあ。」と声をかけくれる方があって、手を伸べてくれましたので握手です。
「この人はな、もう職人を撮るのに飽きて最近は若い女性ばかり撮ってるんだよ。だからわしらには用はないそうだ。」と軽くジャブを打ってきます。

なるほど私は若い女性を撮るのも大好きです。 いつもどこかに「素敵な人はいないかな」と鵜の目鷹の目です。
ですが、ご覧のとおり、職人さんを撮るとこういう写真になるんです。

この楽しさを捨てられるわけがないじゃないですか。
確かに毎度同じような姿勢の人を撮るのですから、一面代り映えしないとも言えます。
しかし、働く人、仕事に打ち込む人、高い技をお持ちの人、まじめに真剣に事に当っている人を撮ることはそれはそれは楽しいことです。
どうかしてその魅力を写真にしたいと思います。

この方は金彩をされています。
撮らせていただきたいとお願いすると、わざわざ華やかに描かれた別のものを取り出して、「もう仕上がっているから描くところはないけれど・・・。」とおっしゃってポーズしてくれました。
なるほどそのほうが写真の絵柄は華やかで見栄えがすると思いますが・・・・、「すみません。ご迷惑でなければ先ほどの仕事を続けていただけませんか。実際に描いていただけると指や全身にリアリティーが出ますから。」とお願いしました。

するとやはり俄然空気が違ってきます。
この方の周囲が張り詰めて来て、全身が一点に集中します。
最初は「撮影用」を意識されていたかもしれませんが、シャッター音が静かな会場に響くたびに、ぐっぐっと気持ちが込められていきます。

これをこそ撮らなければと身を乗り出したり、床にかがみこむと、それを受け止めて描いていただいているような交流があります。
- 2018/02/07(水) 00:00:08|
- 伝統工芸
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