皆さんは「草木捺彩陶」という名称をご存知ですか。
私は初耳でした。
前田さんは粘土に生きた草木を押し付けて、その窪みに釉薬で彩色をして焼き上げる陶板制作をあみだした方です。
ですからこの「草木捺彩陶」というのは前田さんの作品に対して新たに作られた名称なのです。

前田さんは「ピカソやゴッホなど教科書に登場する人は皆、何かを最初に始めた人 誰もやらないことをやらないと歴史に埋もれてしまう。」という事を言われています。
これはなかなか重い言葉です。
もともと教育の場に進むおつもりで勉強されていて、芸術についてこのような考えから授業をしようと思われていた「芸術家のスタンス」を「自分がその道を歩くことになって、じゃあ、授業で言っていたことを自ら実践に移さなくては…。」という思いを抱かれたそうです。
これはなかなか厳しい基準ですね。

ご自身い厳しい方は周囲に対して穏やかで優しいということがよく見られますが前田さんも同じです。
大変に物腰が柔らかくお話も熱は籠っていても静かで丁寧です。
熊本では「網田蒼土窯の前田和窯元」として知られているようで、江戸時代に生まれて数十年で一旦は滅びた「網田蒼土焼き」という手法を復活再現されています。

植物を粘土に押し付けて形をとって彩色する・・・・そうすれば本物そっくりの絵が完成するのは当たり前じゃないか・・・と、それは自らやってみたことのないものの思い込みです。立体であるものを二次元に封じ込めてなおかつ絵として成り立たせるのは至難だと思います。
まして前田さんは根の先のひげ根一本一本を「すべてのものに仏が宿る」という思いで定着させているのです。

お住まいの熊本から自動車に、この重い、取り扱いの難しい陶板作品を積んで自ら運転して京都のギャラリーに搬入されているのです。
そのバイタリティーとこの穏やかさとのギャップがまた魅力的です。
「2千年存続する作品を作ってほしい。」という注文を受けて、それに応えるべき素材から技法、そしてその形状はどうあるべきかを根底から問い直し、30年の月日を注いで作り上げるという探求の人でもあるのです。
それは先の「網田蒼土焼き」の再現にも見えます。

ワインパーティーの前に前田さんがご自身のお仕事についてお話しされたのですが、ギャラリーのオーナーが時々こんなこともおありだってでしょ?と水を向けて話し出されるような一面もあり、どうかして自分を大物に見せようというような気持ちの薄い方だなあと感じました。
- 2017/11/24(金) 00:00:57|
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