現代の名工のお一人です。
印章を彫っておられます。
彫刻刀の下に引いている木片が[支点」となって役割を果たしています。

片刃の彫刻刀も使いますが、これは先端に刀身とは直角に刃がついています。
刃の幅は様々ですがこの彫刻刀の場合は1ミリもありません。
彫刻刀はご自身で作ります。 刃もご自身で付け、常に丁寧に研ぎに研ぎます。

道具は職人の命です。
その方の手指の延長ですから、刃の角度もその人その人で違います。
この方のものはかなり鋭角に切っ先までの角度をつけて、その先に刃がついています。
鋼に握りになるように柄を付けますが円錐を二枚に割ったような板で、鋼を挟みそれをタコ糸で何度もまきます。すべてご自身の手指の感覚に合わせて、ご自身の技能を最大限に発揮できる形にご自身で制作します。

粗彫りから仕上げに入ると周囲のふちも文字の線もエッジが明確になり俄然クリアになります。
荒彫りの時でさえこんな繊細な線が・・・・と思うのですが、その線がまるでボケた曖昧なものに見えてくるのです。
コンマ1ミリほどの周囲の縁の側面がきりりと立ち上がります。
それを拡大鏡で見せていただきます。

こういう公開実演の場でするのは粗彫りまでが普通だそうです。
そこまでならたとえ話しかけられても大丈夫なんだそうです。でも仕上げに進むと・・・・お店ではお客さんが来ても放置だそうです・・・・・深く深く集中します。
話し込んでいるうちに「仕上げをして見せましょう。」とおっしゃって仕上げ用の彫刻刀をとって彫り始めてくれました。
その集中する表情は先ほどまでの表情とは画然と違います。呼吸も違います。
粗彫りのときでも随分な集中力だなあとみていましたが、それは全然違う精神的な集中の世界です。
私がシャッターを切るこちらの世界に心はおられません。そんな感じがするほどです。

「これでどうかな。」
- 2017/11/19(日) 00:00:17|
- 工芸
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