織物は糸から成っています。
西陣では多く生糸が使われてきました。
その糸は蚕の吐き出すものだという事はよく知られたことですが、その極細のイトを数本合わせて「撚り」をかけて初めて「糸」として使えるものになります。

この方は11歳の頃にお父上の仕事を手伝い始めてから、この間様々な紆余曲折を経ながら80歳になっ仕事を続けておられる方です。
奥さんと二人三脚だそうです。ずいぶん奥さんのことをほめ、また良く辛抱して支えてくれたと感謝しておられました。

糸の撚りは右回り(右撚り=S撚り)と左回りに撚ったもの(左撚り=Z撚り)とがあるのだそうです。
写真に見えている撚り機は実演用のもので、その原理を示すための簡素なものです。巻き取るスピンドルが縦になっているのですが、この方がずっと使い続けた来たものは「八丁式撚糸機」というものだそうで、巻き取りのスピンドルが横に寝てついています。その両端がそれぞれ糸を撚りながら巻き取るのでスピンドルの一宝庫への回転で糸は右撚りも左撚りも同時に生産できる優れものです。(明日の最初の写真をご覧ください)
「口八丁手八丁」というのはこの撚機が巧妙にも右回り左回りの両方を一度に撚れることから口がうまい手が器用ということを、いったものだそうです。

糸の撚り具合は気温や湿度などによっても違ってくるので「舌に糸をのせた感覚」で確かめるんだそうです。

布は同じ方向の撚りをかけた糸で作れば捩じれてしまいますので、右撚りが2本、次に左撚りが2本という具合に交互に並べるのだそうです。

西陣は実に多くの細分化されれた分業で成り立っている。
糸が無ければ始まらない仕事だが、撚糸の仕事は「随分下に見られてね。辛い悔しい思いも何度もしたよ。」と話してくれました。 問屋などから「撚りの仕事などは」と蔑まれ、たくさんの人の前で「(撚りの仕事をしている者が)椅子に座るなんて・・。」と侮辱を受けたこともあるのだとか。
撚りの成否で糸の輝き方も違ってくるので基礎的な大事な仕事ではあっても辛い汚い仕事という面もあり、なかなか若い人には・・・・仕事もずいぶん減ってしまった今では生活をしていくのも大変だからなおの事・・・勧められないとも言います。

良い西陣織を継承するには大切な仕事だという事はご本人がよくよく承知していたうえでのおっしゃり方です。
ほとんど滅亡寸前の仕事ですが「わしたらの仕事がほんまに必要ならば、誰かが何とかするでしょう。」とおっしゃいます。
下の写真では「糸を扱っていると指先や手のひらが割れて痛くて辛い、仕事場におりたくなくなるほど痛いこともある。それが医療用の手袋を付けることによって解消できた。7,87年前の事。
そういう新しいことを採りいての工夫がなかなか進まない世界でもあるけれど、やはり前向きに工夫を凝らす姿勢が大切だ。」と話されます。
- 2017/01/28(土) 00:00:16|
- 工芸
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