京指物師。
この場では名刺入れを作っておられた。
木の枠を裏表から木の板で挟んで作る。
言えば簡単な作業だ。

しかし、こういう職人さんのものづくり魂にあうと、それが簡単ではない。
まさに職人芸の生みだす名刺入れに代わってしまう。

第一、材料の木が違う。
古民家材や神社仏閣の改修によって「廃材」になったものを使う。あるいは神代木とか「埋もれ木」などを使う。
ですから木材そのものの色や風合いがそもそも違うのです。
古木でも鉋をかけると木の香りが漂います。この時もヒバを削ってくれました。すっかり枯れ切ったかと見える気を削るとたちまち芳香が立ち上ります。
こういう気を探し求める力が違います。
いつでも材木屋に並んでいるようなものではありません。

そして技が違う。
名刺入れに入れた名刺はふたを開けて逆さにしても落ちてきません。
名刺の寸法ぴったりですからです。そしてだからこそ入れるときに何の難しさもないのです。
この絶妙さは不思議でさえあります。鉋の冴えです。

木の枠を裏表から板で挟んで接着する。・・・・・文字すればこれだけのことに古木の持つ色の深みや手触り、先ほど言った寸分狂わない作り。今日の職人の伝えてきた文化が凝縮しています。
ですから例えば海外出張のビジネスパースンが、これを赴任先で取り出せば、ただ名刺を交換するだけの場面でこの無事ネスパースンの背後に日本の重層した文化を語らせることができるのです。

日本人形やセンスをプレゼントするだけが能じゃない、というところでしょうか。
- 2016/11/26(土) 00:00:47|
- 伝統工芸
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