友禅染の最後の工程として、金(銀)粉や金(銀)箔を施す仕事があります。無論デザインによってはこの過程はないのですが、金粉や金箔が施されるとがぜん豪華になります。もちろん高価にもですが。
そこで価格を抑えるために材料に本物の金粉ではなくて、よく似た代用物がつかわれることもあるそうです。
「がぜん豪華に」と書きましたが、品を失わないところがすごいです。
この方はその最後の工程をされている太田さんです。
今、金粉がかかってはいけないところを覆うためにフィルムを切りぬいています。
「切り抜いている」と簡単に書きましたが、すでに最後の段階を迎えた布を下に敷いてフィルムだけを絵柄に沿ってカットしているのです。この時に下の布地にわずかでも傷をつけ、糸を切ってしまえば、文字通り一巻の終わりです。

その緊張の度合いは大変なものです。

ベースボールのプレーヤーのイチローさんが打席に立つと、右手でバットを縦に構えて左手で右の袖口を触るしぐさをしますね。
太田さんは、次のカットに入る前にカッターに息を吹きかけます。息を吹きかけて切れ味が変わるわけではないでしょうし、ご自身意識もされていないかもしれません。が、見ていると、「さあ次だぞ」という瞬間にこの動作が現れます。

ピアニストやバイオリニストが、音によって曲想によって顔の表情や首の傾きや・・と全身で持てるすべての技術を駆使をします。問題は指だけのことではないのですね。

例は適切でないかもしれませんが肉食獣が獲物を襲うときのように全身に神経が行きわたり、全身で次を狙っています。

今回、私が一番気に入っているカットです。
(⇔:クリックしてご覧ください)
- 2011/10/01(土) 00:02:14|
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